「制服で休憩するなんて…」という声もありますが、実際どう思われますか?
<勉強会代表・マイ(以下・マイ)>
救急救命士さんの制服は「長袖」というイメージです。夏は暑くないのですか?
<救急救命士ツブさん>
私の所属する消防本部では、基本的に長袖の救急服で業務を行います。
救急出動の際は、その上から感染防止衣を着用して、救急現場に向かいます。あまりに暑い日は、救急隊員の体調を考慮して、救急服を脱いだ上に、感染防止衣を着用して出動します。夏はとても暑いですよ!
<マイ>
え!猛暑の期間に、「長袖」で働かれるんですか?!
外では、半袖でもクラクラするほどの暑さだと思うのですが…。一般人の私のイメージだと、救急現場では、スピードや体力勝負な感じがします。1回の救急出動で、ものすごく疲れてしまいそうですが「疲れた」なんて、弱音を言えないお仕事ですよね…。
1日、何回くらいの救急出動があるのですか?
<救急救命士ツブさん>
救急服は、夏服と冬服があって、夏服は少し薄手になっています。それでも「厳しい」と判断した場合は、上司の判断で指定のTシャツで勤務できます。
弱音を吐いてもいいですが、災害は待ってくれませんからね(笑)
私の地域は田舎なので、年間通して1日平均8件ほどです。都会であればあるほど、出動件数は増えると思います。
<マイ>
制服を着る意味は何でしょうか?
<救急救命士ツブさん>
救急隊が、救急服を着る理由は、安全性・識別性・機能性だと思います。
安全性については、救急服には反射材が施されているので、視界の悪い環境でも、人や車両から認識されやすくなっています。また、難燃素材を使用しているので、火災現場でも身を守ってくれます。
識別性については、消防隊と救急隊を一目で識別できると言う点で、メリットが大きいです。田舎の消防では、日によって誰が何隊に当てられるかが違うので、混乱を避けるためにも制服は便利です。
機能性については、ポケットが多く、観察・処置に必要な資機材を、携行するのに便利です。
<マイ>
制服は何枚重ねですか?
<救急救命士ツブさん>
通常時はTシャツの上に救急服を着用して勤務しています。災害時には、その上に感染防止衣や防火服、雨ガッパなどを重ね着して対応します。
<マイ>
1日の勤務のタイムスケジュールを教えて下さい。
<救急救命士ツブさん>
車両・業務の申し送りを受ける▶︎ミーティング▶︎車両、資機材点検▶︎警防訓練▶︎各係ごとの業務▶︎昼食▶︎各係ごとの業務▶︎夕食
この中で、災害があれば出動しますし、避難訓練・救急講習会・査察の対応もしています。
<マイ>
えっと…。率直に聞いていいですか?「休憩時間」ゼロですよね?『休めるときに休む』イメージなのでしょうか?
でも、当たり前ですが、24時間、朝から晩まで「119番受信」に備えていなければならないので、気持ち的に休まる時間って無いのではないですか?
<救急救命士ツブさん>
休憩時間はありますよ!
私は、昼食をとった後に20分ほど仮眠をとりますし、通信勤務の仮眠時間は、積極的に仮眠を取るようにしています。
確かに、常に災害に備えているため、気持ちが休まる時間がないように思いますが、オンとオフを明確にすれば、なんとかなるみたいです(笑)
<マイ>
マスクもつけての救助作業、救命士の方の方が体調を崩されることはないのですか?
<救急救命士ツブさん>
消防職員は危機管理のプロですので、体調に異変がある隊員は、すぐに現場から離脱させます。
ただし、人間ですので疲労や寝不足など、様々な条件が重なると、体調が崩れることもありますね。
<マイ>
ついつい、消防隊員の方や救急隊員の方などを見かけると「私たちとは違って、プロだから」なんて思ってしまったりします。
でも、おっしゃる通り人間なので、誰でも当たり前に体調を崩しますよね。
なんとなく、「休む」ことが「自己管理がなっていない」とか「周囲に迷惑をかける」とか、後ろ向きなイメージがあるのですが、ツブさんの『体調を整えることに専念する』という言葉で、「休む」ことも大事な仕事の一環なんだと思いました。
ツブさんは、「体調が悪い」と思ったら、すぐに上司の方に伝えますか?その時、どんな気持ちか、聞いてもいいですか?
<救急救命士ツブさん>
体調が悪いと感じたら、一刻も早く伝えるべきだと思います。厳しい言い方ですが、周りが気づいてくれるなんて、思わないほうがいいです。
私はよく後輩に「休むのも仕事」と言っています。災害はいつ起こるかわからないので、その時にベストパフォーマンスを発揮するには、休むことがとても重要ですからね。
<マイ>
救命士さんや消防隊員さん、または警察の方など、公の場で休憩することに、批判的な意見を持つ方もいらっしゃるようです。
このことについて、現役のファーストリスポンダーとして日々働かれているツブさんの思いをお聞かせください。
<救急救命士ツブさん>
感じ方は様々なので、批判的な意見があるのは、仕方がないのかなと思います。また、休憩の取り方にも、問題があるケースもあるかもしれません。(例:馬鹿騒ぎをしながらとか、自販機の前で屯しているとか)
いずれにせよ、生きるうえで水分補給などの休息は必須なので、丁寧に説明することで、理解していただくしか、解決策はないのかなと思います。
<マイ>
不思議だなぁ〜と思うのが、どんな仕事にも「休憩時間」ってあると思うんです。コンビニ前で、スーツ姿の方々がコーヒーを飲んだり、喫煙しながら雑談したり、レストランなどで談笑していても何とも思わないです。
でも、ものすごく正直に言うと、警察官や消防隊員などの方々が、公の場で笑いながら雑談していたら、つい見てしまうと思うんです。
これは「警察官の方は常に真面目で私語を慎まなきゃいけない」とか、「救急隊員や消防隊員の方々は、気を緩めちゃだめ」というような、私の勝手なイメージが根底にあるのかな、と思います。
でも、24時間気が抜けないお仕事だからこそ、少しでも心にゆとりの持てる時間がないと、いざという時に心も身体も疲れ切ってしまいますよね…。制服だけで「こうあるべき」と思い込んでいて、恥ずかしいし、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
ツブさん、私みたいな考えを持っている人に、メッセージをお願いしてもいいですか?
<救急救命士ツブさん>
なるほど、確かに「イメージ」って大きいですよね。でも、それは仕方ないのかなと思いますし、必要でもあるのかなと思います。
いろんな目があるから、襟を正す原動力にも繋がりますしね。それに、実際に素行の悪い職員も、いることは事実だと思います。
「それは良くない」「目に余る」「不愉快だ」と言ったことがあったら、声をあげていただいて構わないと思います。
お互いにとって住みやすい環境を、一緒に作っていけたらと思います。
<マイ>
「このことは、社会の皆さんに知ってほしいな」と、一般の方へメッセージはございますか?
<救急救命士ツブさん>
お子さんのいる方は、暑熱環境においては特に注意していただきたいです。それは、0才から4才の熱中症による死亡が多いからです。
この年齢は、体温調節機能が未熟なうえ、地面と頭部が近いため、熱中症リスクが非常に高くなります。
さらに、マスクをしていると、表情が確認しづらいため、見落としがちになってしまいます。
後悔しないためにも、最大限の注意をお願いします。
<マイ>
「救急車を呼ぶタイミング」って、一般市民の私にはよく分からなくて…。たとえば、これから始まる猛暑。「こういうサインが出たら、救急車を呼ぶといいよ」という、目安のようなものはありますか?
たとえば、5分以上吐き気が続く…など。また、ツブさんが、猛暑対策として個人的に実践していることなどあったら教えてください。
イタズラ電話って本当にあるんですね…。
<救急救命士ツブさん>
猛暑下での救急要請の基準ということですが、「熱中症」に関して言えば、意識障害・頭痛・嘔吐・虚脱感などの症状があれば、中等症以上のレベルだと判断できます。この場合は、すぐに救急車を呼んでください。
自力で水分を飲んで、回復できるようであれば、そのまま経過を見たり、自家用車で
病院を受診していただければと思います。
猛暑対策として実践していることは「暑熱順化トレーニング」です。これは「暑くなる前に、体を暑さに慣れさせておく」というものです。涼しいうちから、厚着をして筋トレやランニングをしたり、しっかり入浴するなどがありますが、私はサウナで、暑さに体を慣らしています。
何事も「準備」が大切ですよね。
幸い、私のところでは年間数件しかありませんが、いたずら電話は「偽計業務妨害罪」にあたり、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられますので、やめておいたほうがいいですよ?お互いにとって、メリットがありませんからね。
<マイ>
猛暑のなか、救命士さんとして働かれることで、いちばん困ることは何ですか?
<救急救命士ツブさん>
猛暑日が続くと、出動件数が増加します。それに比例して、救急隊員の負担も増加します。
救命士(隊長)は、隊員の体調管理も担う立場ですので、積極的に水分補給や休憩をとらせています。とはいえ、疲労は蓄積してしまうので、精神面・体力面のケアに、苦慮しています。
<マイ>
熱中症で倒れた人を見かけたら、救急車が到着するまでにできることはありますか?
<救急救命士ツブさん>
熱中症で倒れている人を見かけたら、まずは涼しい場所に移動してください。それが難しいようであれば、日傘などで日光を避けるなどの対処が望ましいです。
水分を自力摂取できるようであれば、水分を与えてください。できない場合は、誤嚥してしまう可能性がありますので、無理に飲ませることは控えてください。
汗が出ているならまだいいのですが、汗が乾いて体温が上昇している場合は、体温調節機能に異常をきたしています。霧吹きで体表に水を吹きかけ、うちわで仰いであげることで、効率的に体温を下げることができます。また、首・脇・鼠径部にコールドパックをあてることで、動脈血を冷やすことができるので効果的です。
<マイ>
救急救命士さんが、コッソリ愚痴りたいなぁ〜ということ、ありますか?
<救急救命士ツブさん>
「こんな軽症なのに救急車を呼ぶなよ」「こんな重症化する前に救急車を呼べよ」「これくらいならタクシーで行けよ」…このような愚痴はよく耳にします。
しかしこれは「こちら(消防)側の目線」でしか、物事が見えていない人の発言だと思います。「そちら(通報者)側の目線」で、救急車を呼ぶことが最善策だと思えば、ぜひとも呼んでいただきたいと思っています。
重症化してから呼ぶ方はきっと、「これぐらいで呼んではいけないな…」と言う思いから、我慢した結果なのかなとも思いますしね。
ただし、お願いですので、いたずらだけはやめてください。
<最後に>
日々、現場で働かれているツブさんから、この文章を見た方にメッセージをお願いします!
(そして、このメッセージを読んだ方から、ツブさんへのご感想・メッセージ・応援はこちらまでお願いします)
<救急救命士ツブさん>
楽な仕事なんてありません。みんな苦労して働いています。なんとか支え合って、猛暑を乗り越えましょう!
救急救命士ツブさん、インタビューにお答えいただきありがとうございました!